弁護士コラム

「相続人の寄与分及び特別受益のお話(2)」 弁護士 鬼頭華子

当事務所では、週に1回、家事事件の勉強会を行っています。 今回は、勉強会で検討した事項の中から、遺産分割において問題となることの多い特別受益について、お話しさせていただきます。

相続人の寄与分及び特別受益のお話

1 はじめに

「妹だけに亡父は結婚支度金を渡した」「長男は、亡父の土地上に自宅を建てて暮らしていたが、土地を無償で使用して利益を得ていた」などとして、遺産分割でこうした利益を考慮すべきだという主張がなされることがよくあります。

このように、特定の相続人が、被相続人の遺贈や生前贈与等により多額の利益を取得していた場合、これらの利益分を考慮せずに相続分を定めて遺産分割を行うと、相続人間で不公平が生じます。

特別受益とは、こうした不公平を是正し、相続人間の公平平等を図ることを目的とした制度です(民法903条)。

2 特別受益の取り扱い~持戻しと相続分の算出~

特別利益は相続財産の前渡しとみなされ、遺産分割の対象となる相続財産(遺産)には、こうした前渡し分が合算されます。これを「持戻し」といい、持戻し後の相続財産を「みなし相続財産」といいます。

この「みなし相続財産」に各相続人の法定相続分を乗じたものを「一応の相続分」といい、「一応の相続分」から特別受益分を控除した残額が、特別受益を得た相続人の「具体的相続分」となります。

最終的に、各共同相続人の具体的相続分の合計額に占める割合(「具体的相続分率」)を遺産分割時の相続財産の評価額に乗じた分が「現実的取得分」となります。 なお、みなし相続財産は相続開始時の評価額、現実的取得分は分割時の評価額をもとに算定しますので、注意が必要です。

3 どのような場合が特別受益にあたるのか

特別受益として認められる要件は、①遺贈または(婚姻・養子縁組のため、生計の資本としての)生前贈与があったこと、かつ、②上記遺贈・生前贈与を受けた者が共同相続人であることです。

特別受益に関して問題になることが特に多いのは、①の「生計の資本としての生前贈与」にあたるか否かです。判例上、「生計の資本としての贈与」にあたるかは、贈与の金額や贈与の趣旨から判断され、相続分の前渡しとして認められる程度に高額な金銭の贈与は、原則として特別受益にあたるとされています。

4 具体例の検討

結納金(1)

特定の相続人にだけ、他の相続人に比べて多額の結納金を支払った、などの場合は特別受益に該当します。

(2)学費等

私立か公立か、遠方か近場か、などによって各相続人に学費関連の支出額に差が生じる場合がありますが、一般的には、親の子に対する扶養義務の範囲内として遺産の前渡しの趣旨は含まれないとされます。

結納金

(3)土地の無償使用

実務上、特定の相続人による、被相続人の土地の無償使用は、土地の使用借権が当該相続人に設定されていたと捉えられ、後述の持ち戻し免除の意思表示がない場合には、借地権割合額を特別受益として取り扱われることが多いです(使用借権割合は、実務上、堅固な建物で評価額の20%、非堅固な建物で10%とされているようです。)

生命保険金

生命保険金(4)

生命保険金の受取人が特定の相続人である場合、原則としては、特別受益にはあたりません。しかし、判例上、「受取人である相続人とその他の共同相続人との間の不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、特別受益に準じて持ち戻しの対象になる」とされています。

「特段の事情」の存否は、まず、保険金の額の大きさ、遺産(被相続人名義の相続財産)に占める割合(実務上、6割程度を超えるかが目安となっています)によって客観的に著しい不平等が生じないか判断します。次に、被相続人と受取人たる相続人との関係、生活実態などから、持戻しをしなくても相続人間の公平を損なうといえないか否かが判断されます。例えば、受取人たる相続人は無償利用している土地上の家で被相続人と同居し介護していた、などの事情があれば持戻しをしなくても不公平とはいえない、など判断されることがあります。

遺産(相続開始時にあった被相続人名義の相続財産)の6割の生命保険金を受け取った相続人につき生命保険金を特別受益と認めた裁判例(名古屋高裁平成18年3月27日決定)があり、抑え目に生命保険金額を設定しないと特別受益とされるリスクがあります。

5 持戻し免除の意思表示

被相続人は、意思表示により、特別受益の持戻しを免除することができます(民法903条3項)。例えば、特定の相続人が土地の無償使用をしていたとしても、当該相続人が当該土地上に被相続人と同居するための建物を建設したような場合は、被相続人が当該相続人に対して法定相続分より多く遺産を相続させようと考えていたとして、持戻しを免除する(黙示の)意思表示があったと判断されることが多いようです。

6 おわりに

2回にわたってご紹介してきた寄与分、特別受益の制度は、複雑ではありますが、遺産分割において、知っておいて損はない制度です。
なお、詳細な検討については専門家にご相談されることをお勧めします。

※平成30年8月28日時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。

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