相続問題についての知識
遺産分割後に遺言が見つかった場合の対応
遺産分割を終えた後、被相続人の遺言書(法律上は「遺言」といいます。)が見つかった場合、既に行われた遺産分割はどうなるのでしょうか。また、相続人はどのように対応したらよいのでしょうか。

原則として遺言の内容が優先する
遺言は、遺言者の意思を表示したものなので、法的にも、尊重されています。
遺言は、遺言者の死亡の時から効力が発生します(民法985条1項)。つまり、被相続人の死亡した時点で、遺言の内容に基づく権利関係の変動が発生したことになるのです。
遺言者の死後どれほど時間が経っていようと、このことは変わりません。
したがって、遺産分割協議の後であっても、遺言が見つかった場合は、原則として遺言の内容が優先されます。
なお、遺産分割は、協議・調停・審判のいずれかの方法によって行われますが、いずれの方法であっても、遺言の内容が優先することに変わりはありません。
相続人全員の合意がある場合は従前の遺産分割内容のままでよい
しかし、相続人は、遺言の内容と異なる内容の遺産分割を成立させることができます。
したがって、遺産分割後に遺言が見つかった場合であっても、相続人全員が既に行われた遺産分割の内容に合意している場合は、従前の遺産分割の内容を遺言に優先させることができます。
ただし、相続人全員が、遺言の存在及び内容を知ったうえでの合意でなければなりません。遺言の隠匿は欠格事由にあたり、相続する資格がなくなってしまいますので(民法891条5号)、遺言が見つかった場合は、相続人全員に知らせ、内容を確認できるようにしてください(裁判所での検認の手続をとるのが安全でしょう。)。
相続人全員の合意があっても、遺産分割をやり直す必要がある場合もある
次の場合は、遺産分割時に関与すべきだった者が関与できていなかったことになりますから、遺産分割時に関与した相続人全員が合意していたとしても、従前の遺産分割の内容を優先させることができません。これらの場合は、改めて遺産分割をやり直せば、遺言内容と異なる内容の遺産分割を行うことができます。
- ①遺言によって遺言執行者が選任されている場合
遺言執行者によって遺言内容が執行される可能性があります。ですので、遺言執行者の同意を得ておく必要があります。 - ②遺言による認知がなされている場合
認知により相続人となった者を含め、遺産分割をやり直す必要があります。 - ③相続人以外の第三者に遺贈させる内容の遺言の場合
当該第三者(「受遺者」といいます。)を含め、遺産分割をやり直す必要があります。 - ④相続人が遺言によって廃除されていた場合
廃除された相続人を除いての遺産分割が必要となります。
相続人の合意が得られない場合の対応

たとえ1人であっても、相続人が、遺言が見つかったことをきっかけとして、既になされた遺産分割の内容を無効だと主張した場合、どうなるのでしょうか。
この場合、従前の遺産分割が直ちに無効となる訳ではありません。
判例は、「遺言の存在を知っていれば遺産分割の合意をしなかったであろうといえる場合」には、遺産分割に錯誤があったとして、遺産分割を無効と判断しました(最判平成5年12月16日)。
この判例を解釈すると、遺言内容と遺産分割内容の相違があまりない場合や、遺言の内容が明瞭ではないような場合は、「遺言の存在を知っていれば遺産分割の合意をしなかった」とまで言えず、従前の遺産分割は有効のままとなり、遺言に当該遺産分割内容が優先するとして、遺産分割をやり直さなくてもよい可能性があります。
おわりに
遺産分割後に遺言が見つかった場合は、遺言の内容や相続人の反応によって、対応が異なりますので、専門家に相談してみることをお勧めします。
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