共有物の管理に関する法改正(令和3年の民法改正)
法改正がなされた背景
共有物件の場合、共有地の整備(但し、土地の性質を変えない範囲に限られる。)、共有建物の改築等をする場合には、共有者間で協議して決定する必要があります。
そして、上記の行為は、「共有者の管理」にあたるところ、共有者の管理方法は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するとされています。

例えば、A、B、Cがそれぞれ3分の1ずつ共有持分を有している場合、3人のうち2人が賛成した管理方法が採用されることになります。
もっとも、法改正前では、共有物を現に使用する共有者に対し、他の共有者が当該共有不動産の明渡しを請求するためには、「明渡を求める理由」が認められなければならないとされていました。
すなわち、先ほどの例に沿って説明すると、Aが共有不動産を勝手に使用している時、BとCが協議して、Aに退去してもらい、建物を改築することを決めても、「明渡しを求める理由」が認められない限り、Aを共有不動産から退去させることができませんでした。
そして、この「明渡しを求める理由」というのが定かではなく、どのような場合に明渡しが認められるかは、明確になっておりませんでした。
しかし、今回の法改正により、上記の問題が解消されました。その他、法改正によって、具体的に何が変わったのかを以下説明していきます。
具体的に何が変わったのか
大きな変化としては、以下の3点が挙げられます。
- 共有物を使用する共有者がいるときも、共有者の管理方法は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することになりました。
- 共有者のうち不明者や賛否を明らかにしない者がいる場合、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができるようになりました。
- 共有物の管理者の選任及び解任に関する規定が新設されました。
以下、上記①から③について詳しく説明していきます。
1.共有物を使用する共有者がいる場合の共有物の管理方法の決め方について
前述したとおり、共有物を使用する共有者がいた場合、かかる共有者に退去を求められるのは、どのような場合なのか明確になっておりませんでした。そこで、法改正によって、共有物を使用する共有者がいても、共有者の管理方法は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することが明記されました。
これにより、先ほどの例の場合(Aが共有不動産を勝手に使用している時、BとCが協議して、Aに退去してもらい、建物を改築することを決めた場合)、Aに対して退去を求めることができるようになりました。

もっとも、管理に関する事項の決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべき時は、その使用する共有者の承諾を得なければなりません。
2.共有者のうち不明者や賛否を明らかにしない者がいる場合の共有物の管理方法の決め方について
共有者が他の共有者に対し、相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないときも、裁判所は、当該賛否を明らかにしない共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数により、共有物の管理に関する事項を決定することができる旨の裁判をすることができるようになりました。
これにより、共有物の管理に関心を持たず、連絡をとっても返答しない共有者がいる場合や、行方不明の共有者がいる時には、共有物の管理が困難となる問題がありましたが、裁判所の決定を得られれば解消されることになります。
もっとも、管理に関する事項の決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その共有者の承諾を得なければなりません。
3.共有物の管理者の選任及び解任に関する規定について
共有物の円滑な管理を図るため、予め管理者を選任し、その管理を管理者に委ねることができるようになりました。
共有物の管理者の選任及び解任は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するとされております。
なお、管理者は、共有者の中から選んでも構わないですし、第三者を管理者に選任することもできます。また、選任された共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができますが、共有物に変更(例えば不動産を売却する場合など)を加えるには、共有者全員の同意を得なければならないとされております。
まとめ
以上のとおり、共有物の管理に関して、様々な法改正がなされました。
当事務所では、不動産に関する紛争についても豊富な取扱・解決実績がありますので、お困りのことがありましたら、ぜひご相談ください。
(2022年12月27日)
※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。
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