遺言書作成時の注意点

遺言書作成時の注意点

遺言書は、自身の財産を誰に残したいかなど、自分の意思を伝えるために有効な手段になりますので、相続に備えて、遺言書の作成を検討している方も多いと思います。

もっとも、遺言書と一口に言っても、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言など、様々な形式があります。

また、自筆証書遺言や秘密証書遺言については、法律で定められた要件を守らずに作成してしまったがために、無効になってしまうケースも散見されます。

そこで今回は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の違いや、遺言書を作成する際の留意点について、対話形式でご説明いたします。

遺言書作成時の注意点
相談者
相談者

私(70歳)には、妻(65歳)と長男(38歳)と長女(35歳)がいるのですが、私が亡くなった後、家族が遺産分割で揉めないように遺言書を作成したいと考えております。
ネットで調べたところ、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があることを知ったのですが、どのような違いがあるのでしょうか。

弁護士
弁護士

自筆証書遺言とは、ご自身が所有されている財産(債権・債務を含む)を一覧表にまとめた目録(以下「財産目録」といいます。)を除く全文を自筆で記載する遺言書のことをいいます。
自筆証書遺言の場合、自分一人で作成するため、手軽に書き直しができるという点や、作成費用がほとんど掛からないというメリットがあります。
もっとも、法律で具体的に要件が定められており、要件を欠いた遺言書は無効になってしまいますし、相続人の誰かに遺言書を書き換えられたり、破棄されたりするリスクがあります。また、検認手続※1を経なければならないという手間も掛かります。

公正証書遺言とは、公正証書という形式で残される遺言書のことをいいます。
公正証書遺言の場合、公証人という、裁判官や検察官を経験した方など法律のプロが遺言書作成に関与するため、遺言書の有効性が争われにくいという点や、公正証書は、原本が必ず公証役場に保管されるので、紛失のおそれや、遺言書が破棄されたり、隠匿や改ざんをされたりするおそれがないというメリットがあります。
もっとも、公証役場に一定額の手数料を支払う必要があり、支払金額については、遺産の総額によって変わってきます※2

秘密証書遺言とは、自筆証書遺言の形式で作成した遺言書の内容を秘密にしたまま、存在だけを公証役場で証明してもらうことをいいます。

具体的な流れは、以下のとおりです。

  1. 自筆証書遺言を作成し、その後、遺言書を封筒にしまう(封筒に印鑑も押す)。
  2. 遺言書が入った封筒を、公証役場に持参し、遺言書が存在することを確認してもらう(封筒を開けて遺言書の内容を確認することはしない。)
  3. 公証役場で手続きが終わったら、遺言書を持ち帰り自分で保管する。

秘密証書遺言の場合、遺言書が封筒の中にしまってありますので、他人によって遺言書が偽造・変造される心配がないというメリットがあります。
もっとも、自筆証書遺言の時に挙げたデメリット(要件を欠いた遺言書は無効になる、相続人によって遺言書が破棄されるリスク、検認手続が必要)は、秘密証書遺言にも当てはまります。
なお、現実には、秘密証書遺言は、ほとんど使われていません。

※1 検認手続とは、遺言書を発見した相続人が、遺言書を開封せずに、そのまま家庭裁判所に提出し、遺言書の内容及び形式を家庭裁判所で確認する手続きのことをいいます。
※2 日本公証人連合会のHPに手数料の一覧表が掲載されています。(https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02/2-q13

相談者
相談者

自筆証書遺言については、要件を欠くと無効になってしまうとのことですが、具体的にどのような要件が定められているのでしょうか。

弁護士
弁護士
  1. 自筆証書遺言の場合、本文、日付、氏名は遺言者自らが署名し、かつ、押印しなければなりません。
    なお、遺言書の作成日付は、日付が特定できるよう正確に記載する必要があり、具体的な日付が記載されていないと無効になります。
  2. また、財産目録は、自書でなく、パソコンを利用したり、不動産(土地・建物)の登記事項証明書や通帳のコピー等の資料を添付する方法で作成することができます。
    もっとも、その場合は、目録の全てのページに署名押印が必要になりますので、注意が必要です。署名押印を忘れた場合のリスクを考えると、財産目録に関しても、自書した方が無難かもしれません。
  3. 加えて、書き間違いをした時の訂正や、内容を加筆したいときの追加は、その場所が分かるように示した上で、訂正又は追加した旨を付記して署名し、訂正又は追加した箇所に押印をする必要があります。

以上のとおりですが、自筆証書遺言の作成方法については、法務省のHP(https://www.moj.go.jp/MINJI/03.html)をぜひご参照ください。

相談者
相談者

自筆証書遺言の場合、紛失したり、誰かが遺言書を書き換えたりする可能性があると思うのですが、そういった問題を解消する方法はあるのでしょうか。

弁護士
弁護士

遺言書保管制度を利用するのが良いと思います。
遺言書保管制度とは、自筆証書遺言を法務局に預け、画像データ化して保管する制度のことをいいます。
遺言書保管制度は、法務省のHP(https://www.moj.go.jp/MINJI/02.html)に詳しい説明が記載されていますので、そちらをご参照ください。
なお、遺言書保管制度を使えば、検認手続も不要となります。

相談者
相談者

公正証書遺言を作成する場合は、どのような流れになるのでしょうか。

弁護士
弁護士

まず、遺言者が、公証役場に対し、電話かメールによって遺言書作成の依頼をします。
その後、遺言書の骨子(自身の考えを簡単に記載したもの)や必要書類を公証役場に提出し、公証人の意見などを取り入れながら、遺言書の内容を詰めていきます。
そして、遺言書の内容が確定したら、公証役場で遺言書を作成します。
なお、公証役場に出向くことが困難な場合、公証人に遺言者の自宅や介護施設などに来てもらい、その場で遺言書を作成することもできます。詳細は日本公証人連合会のHP(https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02/2-q10)をご確認ください。

相談者
相談者

自筆証書遺言と公正証書遺言の内容はわかりましたが、結局どちらの方が良いのでしょうか。

弁護士
弁護士

費用は掛かりますが、公正証書遺言の場合、遺言書の内容をチェックしてもらえる、有効性が争われにくい、遺言書が破棄されたり、隠匿や改ざんをされたりするおそれもない、検認手続もしなくて済むなど、多くのメリットがありますので、安全かつ確実な公正証書遺言をお勧めします。

相談者
相談者

遺言書の具体的な内容についてですが、全ての遺産を妻に相続させたいと考えているのですが、何か問題はありますでしょうか。

弁護士
弁護士

法定相続人には遺留分というものがあり、遺言書を作成しても、法定相続人の遺留分を奪うことはできません。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障されている遺産の取得分のことをいいます。
今回のケースでいくと、ご長男とご長女には、それぞれ8分の1ずつ遺留分がありますので、「全ての遺産を妻に相続させる」という遺言書の内容だと、ご長男とご長女の遺留分を侵害してしまうことになります。
そして、遺留分を侵害された者(長男と長女)は、侵害した者(相談者の妻)に対し、遺留分侵害額請求権を行使することができますので、遺言者が亡くなった後に、揉める可能性があります。

相談者
相談者

そうなると、息子と娘にも、一定程度遺産を相続させた方が良いのでしょうか。

弁護士
弁護士

はい、遺産総額の8分の1前後にあたる遺産をご長男とご長女にそれぞれ相続させた方が無難だと思います。

まとめ

以上のとおり、今回は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の違いや、遺言書を作成する際の留意点について、ご説明いたしました。
遺言書の形式や内容に関して悩みを抱えていらっしゃる方は多いと思いますので、悩んでいる方は、ぜひ一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

初回のご相談の場合、30分無料(30分を超えた場合、30分ごとに3, 300円(税込))となっており、通常(60分1万1, 000円(税込))よりもお安くなっておりますので、お気軽にご相談ください。

(2023年12月)
※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。

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