被後見人が囲い込まれている場合の後見申立

被後見人が囲い込まれている場合の後見申立

生前から始まる相続争い

被相続人の生前から、遺産を巡って、相続人間の対立が激化することはよくあります。

例として、お父さんが被相続人となる立場であり、相続人としては息子2人がおり、長男と同居、二男は遠方に居住している場合を考えてみましょう。

まず原則として、お父さんの財産を処分できるのは、お父さんご自身です。お父さんが自分の財産を誰にいくら渡そうと自由ですし、どのような遺言を書いてもかまいません。

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ところが、お父さんの判断能力が低下してくると、相続人が、お父さんの通帳や印鑑を預かるなどして、お父さんの財産を使い込み、さらにはお父さんを囲い込み、他の人との接触を妨害することがあります。

たとえば、同居している長男が使い込みをしているとすると、二男が尋ねてきても、「お父さんが嫌がっているから。」「体調が優れないから。」などといって自宅に入れなかったり、お父さんが出かけるときは必ず同行するなどして、お父さんと二男が接触することを防ぐのです。

または、お父さんを施設に入所させた上で、施設に対し、自分以外の人との面談は断るように要求することもあります。

このように囲い込まれてしまうと、お父さんとしては、困っていても二男に相談することができなくなりますし、二男の方でも、お父さんの状況をしっかりと把握することができなくなります。

このような状態を放置していると、お父さんの財産がどんどん費消され、お父さんが亡くなった時点で、全く財産が残っていないということにもなりかねません。

お父さんが亡くなった後に取り戻せばいいとお考えかも知れませんが、このためには証拠を揃えて訴訟を起こすなどする必要がありますので、非常に難しいことなのです。

使い込み防止のために ~後見申立~

ではこのようにお父さんの判断能力が低下しており、その財産が使い込まれている疑いがある場合、どのような方法をとりうるでしょうか。

1つの手段としては、後見申立があります。

後見申立を行うと、裁判所が、お父さんの身上監護・財産管理を行うべき第三者(後見人)を選任してくれます。そうすると、後見人が財産の管理をすることになりますので、勝手に長男が財産を使うことはできなくなります。

ただし、後見申立を行う際に困ることが多いのが、診断書の問題です。申立の際には、所定の書式に記入された診断書等を提出しなければいけません。

お父さんが囲い込まれている場合、病院に連れて行くことができませんので、診断書を作ることももちろんできず、申立できないということになってしまいます。

しかし、このような場合でも、例外的に、所定の書式ではない古い診断書(本来3か月以内に作成された診断書を提出する必要があります。)や、そのほかお父さんの精神状態に関する資料(介護認定時の記録など)をもって、申立が受け付けられることがあります。実際に、このような事案のご依頼があり、資料を収集して名古屋家庭裁判所に後見の申立を行った例もあります。

なお、後見の申立は、原則として取下げができませんし(家事事件手続法121条)、いったん後見が開始すれば、途中で勝手に止めることはできません。

後見人に対する報酬も発生してきますので、申立の際には、よくお考えいただく必要があります。

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