遺産分割の「前提問題」とは?
遺産分割の「前提問題」とは?
遺産分割を終えた後、被相続人の遺言書(法律上は「遺言」といいます。)が見つかった場合、既に行われた遺産分割はどうなるのでしょうか。また、相続人はどのように対応したらよいのでしょうか。
前提問題って何ですか?
遺産分割では、前提問題と呼ばれる事項があります。
これは、遺産分割の前提となる問題のことであり、
- ①ある財産が遺産に属するかどうか(遺産の範囲の問題)
- ②ある人が相続人であるかどうか(相続人の範囲の問題)
- ③遺言が有効か無効か
というような問題が挙げられます。
当事務所で扱ったケースですと、
①ある不動産が相続人A名義となっていたところ、実際には被相続人がお金を全額出しており、その不動産は実質的に被相続人の遺産ではないか、ということが争いになったケース、
②実の兄弟が他家のわらの上からの養子(他家の実子のように子供の頃から預けられていた)がいて、相続人の範囲が争いになったケース、
③遺言書を作成した当時、遺言者の痴呆症が進んでいて、遺言書が無効ではないか、争われたケース、同じく自筆証書遺言が真実遺言者によって作成されたものであるか疑わしく、筆跡等が争われたケース、などがあります。
前提問題は調停の前に訴訟で解決する必要がある
これら前提問題は、遺産分割をする前提の問題であり、それゆえ、遺産分割調停においてこれらの問題が明るみになった場合、訴訟で解決させておく必要があります。
前提問題があるにもかかわらず、遺産分割調停を続け、審判に至ったとしても、この前提問題が訴訟で決着がついていないと、審判の判断が覆ることになるため、まず、前提問題について訴訟で決着をつけておくことが求められるわけです。
そうしますと、前提問題がある場合は、遺産分割調停をいきなり申し立てず、まずは訴訟で前提問題を解決し、その後に遺産分割調停を申し立てることが定石となります。
前提問題があるのに調停を継続することはできない
もし、訴訟を提起する前に遺産分割調停を申し立てたとしたら、裁判所から、調停の取下げが求められることになります。
訴訟の結論が出るまで、家庭裁判所が調停手続きを停止してくれれば、調停申立ては無駄にはならないのですが、現在の運用では、長期未済事案が裁判所にたまるのは事件管理の上で不適切だという発想から、家庭裁判所は調停申立てを取り下げるよう勧告しています。この勧告に応じない場合は、強制的に調停を終了させる判断を下すこともあります。
つまり、前提問題があるときに遺産分割調停を申し立てることは完全なムダとなってしまうのです。
相続人間に前提問題がありそうだな、と感じたら、専門家である弁護士に相談して頂けたら、二度手間を避けることが賢明です。
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