自筆証書遺言が無効になる場合

自筆証書遺言が無効になる場合

被相続人が亡くなったとき、遺言が作成されていたら、基本的には遺言書の記載どおりに相続がされることになります。
しかし、場合によっては、遺言が無効になることもあります。

今回は、どのような場合に遺言が無効になるかについて、ご紹介させていただきます。

自筆証書遺言が無効になる場合
相談者
相談者

令和4年10月に父が亡くなり、法定相続人は私と弟の2人です。
父の遺産は、私と弟で分けるものと思っていたのですが、先日弟から、父の遺言があるので遺産は渡せないと言われました。

弁護士
弁護士

弟さんがお父様の遺言だと主張する書面は見せてもらいましたか。

相談者
相談者

はい、見せてもらい、コピーももらいました。
便箋のような用紙に手書きで、私の遺産はすべて弟に相続させる、と記載されていました。

弁護士
弁護士

お父様が自筆で書かれた遺言があったのですね。
これが有効になるためには、形式的な要件として、①遺言を作成した日付の記載②被相続人の氏名の記載③押印(認め印や指印でも可)があり、原則、全文が自筆で書かれていることが必要です。(※)
これらの点は問題なさそうですか。
(※ただし、財産目録は自筆でなくてもよい場合があります。)

相談者
相談者

はい、一応それらの記載はされています。

弁護士
弁護士

なるほど、形式的な要件は備えているのですね。
それでは、お父様の遺言が作成された日付は、いつになっていましたか。

相談者
相談者

父が亡くなる約1年前の令和3年10月1日でした。
父は、母が亡くなって以来、実家で1人で生活していたのですが、令和3年9月に施設に入りました。
遺言書の日付は、その施設に入って間もない時期です。

弁護士
弁護士

その頃、お父様の認知の状態はどのようでしたか。
例えば、要介護認定は受けられていましたか。
また、その日の日付や昨日の夕食などは答えられる状態でしたか。

相談者
相談者

要介護認定は受けていました。
確かその当時は要介護3だったと思います。
日付や昨日の夕食などは…、その日の状態によって、答えられる時と答えられない時、両方あったように思います。
このことが、遺言の有効、無効とどのように関係するのでしょうか。

弁護士
弁護士

遺言を作成するためには、遺言能力といって、自分が作成した遺言の内容と、その結果を理解できる能力が必要です。
お父様が遺言を作成した当時、認知症が進むなどして、遺言の内容や遺言の結果を理解できない状態になっていた場合には、遺言が無効と判断される可能性があります。

相談者
相談者

私の記憶では、父は当時かなり認知症が進んでいたように思います。

弁護士
弁護士

そうであれば、①お父様が通院されていた病院の医療記録②入所されていた施設の介護記録③要介護認定を受けた際の介護認定記録などの資料を取り寄せて確認するとよいでしょう。
これらの資料に、当時、お父様の判断能力が相当低下していたことが読み取れる記載があれば、遺言の無効を主張するための手掛かりになります。

相談者
相談者

なるほど、父の判断能力がポイントになるのですね。

弁護士
弁護士

それに加えて、遺言を作成される以前の、お父様と相続人の方との関係性も重要な要素です。
ご相談者様は、遺言が作成された当時、お父様との関係は良好でしたか。

相談者
相談者

はい、良好だったと思います。
私の自宅は、父が住んでいた実家から徒歩10分くらいの近所にありましたので、休日に実家を訪れたり、子供が小さいうちは子供の面倒を見てもらったりしていました。
私は勿論、妻も子供たちも父と仲良くしてくれて、父が施設に入ってからも、家族でよく父に会いに行っていました。

弁護士
弁護士

お父様と弟さんとの関係はどうでしたか。

相談者
相談者

関係が悪かったということはないですが、弟は大学入学と同時に実家を出て、それ以来遠方に住んでいますので、父と弟との交流は多くはなかったです。
正月やお盆などで、年に2回ほど顔を合わせて話をする程度だったと思います。

弁護士
弁護士

そうであれば、お父様が、関係が良好だったご相談者様に、遺産を一切相続させないという内容の遺言を作成することは不自然ですね。
お父様とご相談者様の関係が良好で、交流が多かったことは、遺言の無効を主張するために重要な事情といえるでしょう。

相談者
相談者

なるほど。
あと、少し気になることがありまして、遺言書の字を見ると、もしかしたら父の字ではないかもしれないという気もするのです。

弁護士
弁護士

お父様以外の何者かが遺言書を作成した可能性があるということですか。

相談者
相談者

はっきりとしたことは分かりませんが…。
父の書いた字をたくさん見てきた私からすると、どうにも違和感があるのです。

弁護士
弁護士

お父様以外の方がこの遺言書を書いたのであれば、当然この遺言書は無効になります。
この遺言書の筆跡がお父様のものではないというためには、遺言書が作成された当時のお父様の健康状態や、お父様と相続人との関係も重要ですが、それに加えて筆跡鑑定をすることも考えられます。

相談者
相談者

筆跡鑑定とはどのようなものですか。

弁護士
弁護士

筆跡鑑定の専門家が、お父様が書かれた文字と、この遺言書に書かれている文字を対照して、この遺言書の文字が本当にお父様によって書かれたのか鑑定するというものです。
もっとも、これはあくまで補助的なものですので、筆跡鑑定の結果のみで遺言の有効・無効が決まるというものではありません。

相談者
相談者

今までお話に出てきた事情を総合して、遺言が有効なのか無効なのか判断されるのですね。

弁護士
弁護士

はい、そのとおりです。
今回の場合、まずは遺言作成当時のお父様の医療記録等を取り寄せつつ、ご依頼者様とお父様との関係が良好であったことが分かる資料を探していただくのがよいかと思います。

相談者
相談者

ありがとうございます。
まずはそれらについて確認をしてみようと思います。

まとめ

以上のように、被相続人が遺言を作成していたとしても、その遺言が無効になることもあります。
遺言が無効になるかどうかについては、様々な要素から検討する必要がありますので、弁護士に相談されることをお勧めします。

(2023年1月)
※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。

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