弁護士コラム
「遺産分割の対象となる財産・ならない財産。」 弁護士 大口悠輔
当事務所では、週に1回、家事事件の勉強会を行っています。 今回は、勉強会で検討した事項の中から、遺産分割の対象となる財産・ならない財産についてお話しさせていただきます。
1 はじめに
被相続人が死亡した場合、遺産分割をして被相続人の財産(相続財産)を相続人で分けるということは皆様もご存知のことと思います。
典型的には、被相続人が有していた不動産や預貯金が遺産分割の対象になります。
しかし、たとえば被相続人が亡くなる直前に、相続人の一人が被相続人の預貯金口座から多額の出金をしていた場合、それらのお金は遺産分割の対象になるでしょうか。
また、被相続人の葬儀をあげた場合、その費用を相続財産から支出することはできるでしょうか。
このように、遺産分割をする際に紛争になりやすい点につき、何点かご紹介させていただきます。
2 生前の預貯金の引出し行為について
被相続人の死亡直前に、被相続人の一人が被相続人の預貯金を不正に引出していた場合、どのように対応すべきでしょうか。
引き出された預貯金は、本来被相続人の相続財産になるはずだった財産なのですから、相続人全員で合意すれば、不正に引き出された預貯金を相続財産に戻して遺産分割をすることも可能です。
しかし、遺産分割は、本来的には、被相続人の死亡時に存在した相続財産を相続人に分割する手続ですので、法的には被相続人の死亡直前に引き出された預貯金は、相続人全員の合意がない場合には遺産分割で分けることはできません。
相続人全員の合意が得られない場合、他の相続人は預貯金を不正に引き出した相続人に対し、不当利得返還請求あるいは不法行為に基づく損害賠償請求により、不正に引き出された金銭の返還を求めることになります。
(2)寄与分の要件
相続人の寄与行為が法律上「寄与分」として認められるには、当該行為が「特別の寄与」と評価できること、被相続人の財産の維持または増加があること、寄与行為と財産維持・増加との因果関係があること、が必要です。
「特別な寄与」とは、民法上、夫婦間に存在する同居扶助協力義務(民法752条)や親族間に存在する扶養義務・互助義務(民法877条)として通常期待される程度を超える貢献であることをいいます。
また、寄与行為は、原則として無償でなければならないとされており、寄与行為があったとしても、当該相続人に対して生前贈与や遺言などによって対価が相応に与えられている場合には、寄与分として認められないと解されています。
3 葬儀費用について
葬儀は被相続人のためにするものですから、世間一般の感覚からすると、相続財産から費用を支出すべきと思われるかもしれません。
しかし、法的には、葬儀費用は喪主が負担し、相続財産から費用を支出することはできないことになっています。
勿論、相続人全員の合意があれば葬儀費用を相続財産から支出することも可能ですし、現実にはこのような合意をする場合も多いようですが、相続人の一部が反対した場合には、葬儀費用は喪主負担となってしまいます。
4 墓・位牌等
先祖代々続くお墓や、仏壇、位牌はどのような理由で、誰のものになるのでしょうか。
墓や位牌等は祭祀財産と呼ばれ、被相続人の相続財産とは区別されるため、遺産分割の対象にはなりません。
被相続人が死亡すると、①被相続人の指定、②慣習、③家庭裁判所による定めにより祭祀承継者が決まり、その者が祭祀財産を取得することになります。
①の例としては、被相続人が「○○家の跡取りは□□とする。」などと遺言を遺す場合、②の例としては、慣習によって長男が墓や仏壇を引き継ぐ場合が挙げられます。
5 まとめ
以上のように、被相続人の財産を分けるといっても、法律上世間一般の感覚と異なる定めがされている場合もあります。遺産分割の際、思わぬ不利益を被らないよう、早い段階から正しい知識に基づいて遺産分割手続を進めることが重要です。
※平成30年8月28日時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。