私の姉が自宅で、今年9月22日に亡くなりました。姉は未婚で、父(10年前死亡)、母(5年前死亡)の世話をしてくれました。自宅は父の名義のままで、姉には、預貯金が殆どなく、逆に500万円金融機関から借金がありました。不動産業者に相談したら、自宅の時価は800万円位とのことでした。ただ、他にも借金や未払い金があるかもしれません。唯一の相続人である私として、どうしたら良いでしょうか。

このようなケースでは、考えられる方法は3つあります。

相続放棄

第1に、相続放棄です。不動産等の全ての財産を取得しない代わりに、借金などの負債も一切引き継がないので、すっきりします。被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続放棄の申述をしますが、この手続きは簡単で、裁判所で尋ねれば、書類の書き方も教えてくれると思います。

ただ、本件のように不動産があるときは、相続放棄しても、相続人が全員相続放棄してしまったら、放棄者にも管理義務が及ぶので、管理義務を免れるため、家庭裁判所で相続財産管理人を選任してもらわなければならないことがあります。

限定承認

第2に、限定承認する方法です。限定承認は、プラスの財産の範囲に限定して、マイナスの財産(負債)を引き継ぐ形態です。相続財産が最終的にマイナスとなっても、相続人が相続した財産以上の負債を負うことがありません。しかも、負債を清算した上で、残余財産があれば、相続人はそれを受け取ることができます。そのため、相続人は相続によって不測の不利益を被ることがなくなり、とても都合の良い制度のように思われます。

ただ、複数の相続人がいる場合には、全員一致して手続きをしなければなりませんが、本件の場合は相続人が1人なので、単独でできます。正と負の財産がどの程度あるかわからない場合には、限定承認は選択したくなる手続きです。但し、その後の手続きは面倒で、かなり手間や費用もかかり、弁護士などの専門家に依頼した方が良いかもしれません。ケースによっては、申立人が持ち出しになることもあり得ます。

相続を承認

第3に、単純に相続を承認して、不動産を任意に処分して、負債を全部支払って、残余財産を受け取るという方法です。これは、プラス財産が残る見込みが大きいと判断する場合や、多少自腹を切って債務を負担しても、被相続人の残した借金は、きれいに清算したいと考える場合、事業を引き継いで、再建をはかりたいと考える場合に選択すると良いと思います。通常、裁判所も関与しませんし、早く終われると思います。

なお、相続放棄できる期間(熟慮期間)には、注意が必要です。自己のために相続の開始があったこと(被相続人が亡くなったことと,それにより自分が相続人となったこと)を知った時から3か月以内となっています。この期間については、家庭裁判所に対して、伸張の申し立てをすることは可能です。

月刊東海財界 2021年11月号掲載