Q&A よくある質問

遺言について

在日韓国人の遺言

私の父は在日韓国人で、今年の1月25日に亡くなりました。母は2年前に亡くなっています。私には妹がおり、私も妹も帰化したので日本国籍です。父は、1月20日に心筋梗塞で緊急入院しましたが、私が病院へ駆けつけたところ、父は、今から遺言を残すから録音してほしい、と言いました。そこで、看護師さん立ち会いの下、ICレコーダーで、父の話す内容を録音しました。その内容は、私に世話になったので、全財産を私に相続させる、というものでした。この録音内容は有効な遺言と言えますか。

韓国法と日本法は、家族法(婚姻・離婚、相続分野に関する法律)において、かなり類似した内容になっています。しかし、細部においては、各国の社会的背景、歴史や慣習などの違いから、異なる内容となっており、注意が必要です。韓国の家族法に関しては、日本語による書籍が多数出版されているので、調べることは容易です。

そもそも、在日韓国人が遺言をするときは、遺言の方式の準拠法に関する法律第2条で、日本法によることもできますが、もちろん韓国法の方式に従った遺言も有効です。
以前、私の事務所に相談に来られた方が、ある弁護士から、『貴方は、韓国人だから、韓国に行って、遺言公正証書をつくらなければ、有効な遺言書を作成できない』と言われ、わざわざ韓国に行って作った、と聞き、驚いたことがあります。

もっとも、方式以外の遺言の成立要件や意思表示の効力については、韓国法が適用されます。(通則法37条1項)

ただ、日本で生まれ育った在日韓国人の中には、日本法によって相続関係を決めたいという方もおられます。韓国国際私法では、遺言で『相続は日本法による』と明示した場合、日本法を準拠法とすることを認めています。

ところで、遺言の方式についてですが、韓国では日本と同じく普通方式と危急時の特別方式があります。普通方式には、自筆証書、公正証書、秘密証書があります。ただ、その要件には微妙に違いはありますが、在日韓国人であれば、日本の方式でも、韓国の方式でも方式としては問題がありません。

ご質問のケースですが、韓国では、録音による遺言も認められており、日本と大きく異なります。
韓国民法によれば、録音による遺言に関しては、裁判所の検認が必要です。日本では、録音による遺言を前提とした検認手続きはありませんが、自筆証書遺言に関しては検認手続きがあります。この点について、裁判所に確認しましたが、担当書記官も即答はできず、あとで連絡をもらいましたが、裁判所において録音内容を文字起こしして、検認調書を作成することになるようです。

ただ、日本の自筆証書遺言でも同じですが、録音による遺言も、検認調書が作成されれば当然の有効になるわけではなく、遺言をするだけの判断能力がなければ、検認調書を作成したとしても無効となります。

月刊東海財界 2022年6月号掲載

最近、法務局における遺言書保管制度が始まったと聞きましたが、私は遺言を是非作成しておきたいと思っています。遺言にもいろいろ種類があるとも聞いていますが、どのようにしておけば安心できますか。

最近、法務局における遺言書保管制度が始まったと聞きましたが、私は遺言を是非作成しておきたいと思っています。遺言にもいろいろ種類があるとも聞いていますが、どのようにしておけば安心できますか。

令和2年7月10日から遺言書保管法が施行され、自筆証書遺言保管制度が開始しました。
そもそも、遺言書には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つの種類があります。秘密証書遺言は皆さんにはなじみがなく、弁護士である私ですら、これまで一度しか実物を見たことがありません。

ところで、これまで私は、費用はかかるけど、遺言公正証書を作成された方がいいですよ、とご説明してきました。
自筆証書遺言は、費用も掛からないし、簡単に新しい遺言書に書き換えもできるのですが、遺言書の記載内容を間違えたりして、無効になる心配もあります。また、遺言書が改ざんされたり、隠されたりする危険があるほか、相続人が見つけられないというリスクもあります。
また、遺言書の保管者又はこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならないとされています。検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせ、遺言書の形状、使用筆記具、日付、署名など、遺言書の内容を確認して、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。
他の相続人に対し、裁判所から検認期日の通知をします。

遺言公正証書は、公証人が作成するので、信頼性は高く、無効になるおそれはほとんどないし、安全に保管してもらえるし、改ざんの虞もありません。

ただ、遺言保管制度の創設により、自筆証書遺言のこれまでにあったリスクがかなり低くなりました。自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に申請して保管をしてもらうのですが、この場合には、検認手続きをしなくてすみます。また、法務局に保管されるため、紛失したり、改ざんされたりする虞がなくなります。

相続が始まったら、相続人は法務局で自筆証書遺言の存在を調べることができ、遺言書の証明書の交付を求めることができ、遺言書の閲覧もできます。なお、相続人の一人に証明書の交付をしたり、遺言書の閲覧をさせた場合には、他の相続人に遺言書が保管されていることを通知します。

令和2年7月から令和3年2月までの自筆証書遺言保管申請件数は、15,096件です。令和元年の遺言公正証書の作成件数は、113,137件で、過去最高になっています。今後、遺言公正証書の作成件数が減って、自筆証書遺言が遺言書保管制度を利用する形で増加するかは、なんとも言えませんが、遺言の内容が単純なものであれば、費用面を考えて、自筆証書遺言保管制度を利用する方が得策かもしれません。しかし、遺言内容が複雑であれば、公証人に遺言内容の法的チェックをしてもらえるメリットは、大きいと思います。

月刊東海財界 2021年5月号掲載

遺言(8) 遺言を書くときの注意(3)

私には,息子と娘がいます。妻はいません。
2,000万円の預金と不動産を有しています。不動産の価値は,預金と同じくらいです。

息子には不動産を,娘には預金を渡したいと思います。
まだ会社を定年退職したばかりですが,遺言を書く際に,何か注意すべき点はありますか。

答え
遺言を書くときの注意(2)の続きです。

 

遺言を作成し,「娘にはA銀行B支店の定期預金2000万円を相続させる」と記載したとします。
あなたが亡くなったときに,この定期預金が解約されていたら,どうなるでしょうか。

息子さんの場合と同様に,預金をもらえないということになります。

 

しかし,言葉を変えて,「相続させる」ではなく,「遺贈する」と書くと,意味がまったく変わってきます。
この場合は,たとえ解約されていても,2,000万円を遺贈されたものと推定されます。つまり,遺産から2000万円分の金額を受け取れることになります。

これに対し,預金が普通預金だった場合はそうはならず,遺贈の額はゼロとなると考えられています。

 

参照条文

民法1001条2項 金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合においては、相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときであっても、その金額を遺贈の目的としたものと推定する。

※普通預金は,額が変動することが通常であるため,この条文が適用されないと考えられています。

遺言(7) 遺言を書くときの注意(2)

私には,息子と娘がいます。妻はいません。
2,000万円の預金と不動産を有しています。
不動産の価値は,預金と同じくらいです。

息子には不動産を,娘には預金を渡したいと思います。
まだ会社を定年退職したばかりですが,遺言を書く際に,何か注意すべき点はありますか。

答え

遺言を作成し,「息子には不動産を相続させる」と記載したとします。

これだけですと,もし,あなたが亡くなったときに,不動産が売却済みであったとしたら,息子さんは遺言によって相続できる財産がないことになります。

ですので,財産の状態が変わったときに備えた遺言を作成しておくべきです。

 

遺言を書いたら,当面はそれで安心です。

しかし,まだまだ長生きされるでしょうから,財産の状態は変わっていきます。

生活費や医療費を支出して,預金が減っていったり,不動産を売ることは,ふつうにあることです。

 

作成した遺言も,1~3年おきと決めて,弁護士に遺言を見直してもらうべきでしょう。

 

 

参考条文

民法1023条  前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
民法1023条2項  前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

遺言(6) 遺言を書くときの注意(1)

私には,息子が3人います。
長男には2000万円相当の不動産を贈与しています。
二男には合計で2000万円の現金を贈与しています。
三男には何もあげていません。
私の全財産を併せても2000万円であるので,全財産を三男に相続させる遺言を作成しようと考えています。
これなら公平だと思いますが,何か注意すべき点はありますか。

答え

生前贈与をした事実も遺言に書きましょう。

 

三男は,多くても他の兄弟と同じくらいの財産しかもらえません。
したがって,他の兄弟は三男に遺留分を請求できません。三男は遺産を全てもらえるはずです。

 

三男に対し,生前贈与のことを話しておくこともできますが,長男や二男が先に亡くなり,真実を知る者がいなくなる事態も考えられます。
また,不動産はともかく,現金の贈与はあなたが亡くなった後の立証は難しくなる可能性があります。
三男が他の兄弟が生前贈与を受けたことを証明できないと,三男は,遺産から更に遺留分を引いたものしか相続できなくなります。

 

あなたが,遺言に,生前贈与した事実を書いておけば,有力な証拠になります。
不公平な相続を避けたいのであれば,そのようにすることをお勧めいたします。

 

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