私の妻は5年前に亡くなりました。長男は38歳、次男は30歳、長女は25歳です。私の財産としては、一軒家(時価3000 万円)の自宅と、2000万円の預金、時価1000万円相当の上場企業の株式があります。

長男は、素行が悪く高校を退学になり、私に対してたびたび暴力を振るったり暴言を吐いたほか、金融会社から多額の借金を繰り返し、私が尻拭いしてきました。私は、長男には、遺産を渡したくないと考えており、二男に一軒家、それ以外の預金・株式を長女に相続させる、との遺言を残しておきたいと考えています。

このようにしておけば、長男へは一切遺産が渡らないようにできますか。また、他に良い方法がありますか。

まず、何も対策しなかった場合は、長男、二男、長女は、3分の1ずつの相続分がありますから、2000万円ずつ取得する権利があります。誰がどの財産を取得するかは、原則として3人の協議によります。当事者間で協議できなければ、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てて話し合いをしますが、まとまらなければ、裁判所が審判をして、分け方を一方的に決めます。

それでは、相談者が考えた内容の遺言を残した場合はどうなるでしょう。遺言書には、自筆証書遺言と遺言公正証書があります。いずれの場合でも、いったんは遺言通りに、二男と長女が、指定された遺産を取得することになります。ただし、長男にも、本来の相続分の半分に当たる6分の1、すなわち1000万円については、二男と長女から、遺留分侵害額請求をして取り戻すことができます。

長男にこのような遺留分の請求もさせたくない、という場合には、「相続廃除」という手段が考えられます。遺留分を有する推定相続人を、相続から外す制度です。
民法892条によると、「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき」、又は「推定相続人にその他の著しい非行があったとき」には、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる、としています。

注意しなければいけないのは、請求したからといって、家庭裁判所が必ず認めてくれるわけではない、という点です。上記の虐待をし、重大な侮辱を加えた、著しい非行があったことを、証拠をもって立証することが必要です。家庭裁判所は、統計的には約20%しか認めていません。
具体例としては、被相続人に対して日常的に暴言を吐いて侮辱をしていたとか、被相続人に対して肉体的、精神的に虐待したとか、被相続人の財産を勝手に自分のものにした、重い犯罪を犯した場合には、認められる可能性があります。

長男が相続廃除されれば、遺留分を失うので、二男と長女に対して遺留分侵害額請求することはできません。
ところで、相続廃除は、被相続人の死後に行うこともできます。被相続人自身が、長男を相続廃除したい、と遺言書に記載している例もあり、この場合には、遺言執行者が廃除の申し立てを行います。

月刊東海財界 2023年5月号掲載