私の父が亡くなり、相続が始まりました。金庫から、父の自筆の遺言書が出てきました。

母は父より前に亡くなっており、私が次男で、他に長男と長女がいます。裁判所での検認手続きで遺言書が開封されましたが、私と長女のみに相続分の指定がされていました。

厄介なことに、長男については、暴力や暴言を繰り返されきたので、相続人から廃除するとの文言がありました。遺言執行者として私が指定してありましたが、今後、どのようにすればいいですか。

今回のようなケースは、それほど多くないと思います。

ところで、不当に相続財産を受け取ろうとしたり、被相続人に対しての素行が悪かった相続人に対しては、相続欠格・相続廃除という制度があり、相続の権利を奪うことができます。これに該当すると、相続人とはなれず、遺留分も認められません。

相続欠格とは、「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者」、「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」などの事情がある場合、相続人や受遺者になれなくする制度です。私は、一人息子が母親を殺害したという事例を経験しました。但し、息子が強度の精神病で、心神喪失状態だったため無罪なり、相続欠格がないことになりました。

推定相続人の廃除には、生前廃除遺言廃除とがありますが、被相続人が廃除を望めば、当然に廃除されるわけではなく、相続人から虐待や、重大な侮辱を受けたとか、相続人に著しい非行があるという廃除事由が必要です。しかも、家庭裁判所に申立して、廃除を認める審判をしてもらわなければなりません。

本件では、遺言で、推定相続人の廃除を求めていますが、この場合でも、廃除事由があって、家庭裁判所で、廃除を認める審判がなされることが必要です。この廃除を求める申立は、遺言執行者が行います。
私も、遺言執行者からの依頼で、推定相続人の廃除を申立したことがあります。

通常は、長男が、被相続人に対する暴力・暴言などの虐待や、重大な侮辱をしたことを、すんなり認めることはありません。被相続人が死亡しているため、このような事実の立証が難しく、目撃者の証言や、暴力によるケガの診断書などで証明しますが、虐待や、重大な侮辱を証明できないおそれがあります。

被相続人(父)が母に対して暴行を加えたため、相続人が反撃して父に暴力を加えた事案について、令和元年8月21日大阪高等裁判所の決定で、相続人廃除の申立を却下した審判について、逆転して推定相続人から廃除したケースがあるくらいです。

なお、裁判所が審判によって廃除の審判をして、確定すると、市区町村に届け出ることにより、戸籍にその旨が記載されます。
特殊な事例ですが、長男と和解して、推定相続人の廃除の申立を取り下げたケースがあります。

月刊東海財界 2020年9月号掲載