遺産の一部の分割についてもめています。
時間がかかりそうなので、ひとまず、合意が形成されている遺産についてだけ、分割を進めることはできますか?

遺産分割においては、全ての遺産を、どの相続人が取得するか決定しなければなりません。
では、ひとまず、一部の遺産だけを取得することはできるのでしょうか。
以下、具体的な事案に基づきご説明します。

遺産:
①預金2000万円
②不動産がいくつかあり、その合計が4000万円

相続人:
被相続人の子ども2人のみ

この場合、たとえば、相続人らが両方とも同じ不動産の取得を希望し、なかなか不動産についての分け方が決定できない場合などには、遺産分割が成立するまで、長期間を要することになります。
もっとも、たとえば、双方とも、預金については半分ずつ取得することに合意しており、早く預金を取得したいと希望している場合には、預金だけを分割することが考えられます。

このように、遺産の一部だけを分割することを一部分割といいますが、一部分割については、もともと、法律上、明確に可能であるとは規定されていませんでした。
しかし、実務上は、一部分割についても可能と解釈されており、現実に実施されていました。

ただし、どんな場合でも一部分割が可能であるわけではなく、一部分割が許容される場合としては、一般的に、①一部分割の必要性及び合理性が認められる場合であって、②一部分割後の残部の遺産分割において、共同相続人間の公平等の観点から、適切な分割が可能であることを要するなどと解釈されていました(大阪高決昭和46年12月7日など)。

このような実務上の取扱いをふまえて、民法改正においては、一部分割が可能であることが明示されるに至りました。
また、その上で、どのような場合に一部分割が可能であるかも規定されました。
関係する条文は、改正民法907条となっており、同条では、以下のように規定されています。

〔907条〕
1. 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部または一部の分割をすることができる。
2.遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部または一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
3. 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部または一部について、その分割を禁ずることができる。

同条2項のとおり、「共同相続人の利益を害するおそれがある場合」には、一部分割はできません。
たとえば、特別受益や寄与分も含めて具体的相続分を算定した結果、一部分割により、共同相続人が、適正な相続分を取得することができなくなるおそれがある場合などには、一部分割が認められないと考えられます。

また、成立した一部の遺産分割は、原則として、その後変更はできませんので、残部の遺産分割への影響を十分に検討する必要があります。
安易な一部分割はしないように、ご注意ください。