私は父が在日韓国人、母が日本人です。兄が一人います。私も兄も日本籍です。父が令和元年6月30日に亡くなりましたが、建築業をしており、兄も手伝っていました。父の相続財産は全く分かりませんでしたが、令和元年12月15日になって銀行から多額の借入があり、債務超過であることが分かりました。
兄は父の建設業を受け継いでいくようですが、私は相続する気がありません。
今(令和2年2月28日)からでも相続放棄はできますか。

日本の民法によると、相続放棄は、自己のために相続があったことを知ってから3ヶ月以内にしなければなりません。このケースでは、相続開始後3ヶ月を経過しているため、相続放棄できないように思われますが、最高裁判所は、相当な理由がある場合には、3ヶ月を過ぎていても相続放棄を認めています。相続人が被相続人に借金があることを知らなかった場合が典型的な例です。

ところが、このケースでは亡くなられた方が外国人なので、簡単にはいきません。
法の適用に関する通則法という法律があり、36条によれば、相続は、被相続人の本国法による、とされています。日本に住んでいても、大韓民国の国籍を有している被相続人の相続には、韓国民法が適用されます。通則法では、相続だけではなく、離婚、遺言、不法行為などそれぞれの分野で、どこの国の法律が適用されるか(このことを準拠法といいます。)、細かく規定されています。

まず相談者は、韓国民法によっても相続人であることは同じです。
相談者は相続放棄を希望されていますが、この場合相続放棄をすることができるかが問題となります。

韓国民法では、「相続人は、相続の開始があったことを知った日から3か月以内に単純承認若しくは限定承認又は放棄をすることができる。」と規定しています。そして、「相続人が、相続債務が相続財産を超過する事実を重大な過失なくして、第1項の期間内に知ることができず、単純承認をした場合には、その事実を知った日から3か月以内に限定承認をすることができる。」と規定しています。日本の場合、相続開始を知って3ヶ月を経過しても、相続放棄できる道がありますが、韓国では認められていません。ただ、一定の場合、限定承認することは認めています。

限定承認は、日本法では、相続人全員でしなければならないのですが、韓国民法では、各相続人が単独でできるとされています。しかし、一人だけが限定承認した場合の、その後の手続きは、日本法では想定されていません。

このようなケースはとても珍しく、私は安全策をとって相続放棄申述と限定承認申述をしました。韓国民法が3ヶ月経過後の相続放棄を認めないことは、通則法第42条に「外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。」に該当するので、この部分の韓国民法は適用されない、と考えています。

月刊東海財界 2020年4月号掲載