依頼者:妻(80代)
相手方:被相続人の兄弟の子供ら(40代)

事案内容(相談までの背景)
子供がいないご夫婦のご主人がお亡くなりになり、残された奥様が相談に来られました。遺言がなかったため、相続人間で遺産分割を行う必要があるところ、ご主人には兄弟が沢山おり、相続人の数は多数名に及びました。

相続人の意見は二分しており、遺産は高齢の奥様の今後の生活に役立てるべきだから奥様に遺産を全て相続させるべきだという方々と、法定相続分に従って相続人皆で遺産を分けるべきという方々がおり、どのように解決したらよいか、と相談にいらっしゃったのです。

 
問題点
当事務所に奥様が相談に来られた時には、奥様が全ての遺産を相続すべきだと考える相続人の方々は、相続放棄の手続を既に終えた後でした。
この点は大きな問題でした。なぜなら、もし相続放棄でなく相続分譲渡を行ったのであれば、その相続人の相続分を全て奥様に帰属させる効果があったのですが、相続放棄は、その相続人がはじめから相続人ではなかったこととする効果しかないため、残った相続人らの相続分が増えることにしかならないのです。

したがって、相続分放棄を行った相続人の方々の目的が、上記のとおり奥様に遺産を全て相続させるべきだという目的であって、なおかつ相続人間で意見が割れていたのであれば、相続放棄ではなく相続分譲渡を行うべきだったのです。

 
解決内容
まずは、相続放棄を行った相続人の方々の意向を反映した状態に戻す、すなわち、相続分放棄を無効にして、その方々から奥様への相続分譲渡をやり直してもらうことにしました。そうすると、その方々の相続分をまず奥様のもとに全て集めることができるからです。そして、残った相続人の相続分が増えることなく、相続分譲渡を奥様が得たことを前提に、残る相続人との間で遺産分割協議を行えばよい、ということになります。

 

bengosi解決のポイント(所感)
相続放棄を取り消した状態にするためには、訴訟が必要です。ところが、単に相続放棄を無効にする、あるいは取り消すことを求める内容の訴えは、判例上、せっかく提起しても裁判所から却下されてしまうというネックがあります。
これをどうクリアするかは、弁護士の腕の見せ所ですが、かなり至難の業です。

相続人の方々は、こうした難しい事態にならないよう、最初に、相続放棄ではなく相続分譲渡を行うべきでした。
このように、遺産相続においては、一歩手順を誤るとかなりの損やご苦労を強いられてしまう場合があります。特に、相続人間で意見が異なっているときなどは、どうすべきかを専門家にご相談になることをお勧めします。