今年6月2日に母が85歳で亡くなりました。父は2年前に亡くなっています。私は50歳で、55歳の兄がいます。母は名古屋、私は大阪に住み、兄は3年前認知症を患った母の世話をするということで、東京から名古屋へ戻って、母と同居し始めました。

ところが、兄は母に遺言公正証書(全財産を長男に相続させる、という内容)を作らせた上、有料老人ホームに入れました。また、母名義の預金口座から、繰り返し払戻して、当初5000万円以上あったのに、死亡時800万円となっていました。母が払戻すことは不可能です。

今後、私はどのようにすればいいですか。

今最近、このような事例が増え、特定の相続人が遺産を独り占めにするケースが目立ちます。

まず、遺言公正証書の有効性について争うことになります。ただ、「母は、生前から私を可愛がっていたので、このような不公平な内容の遺言を残すはずがないので無効だ」という理由では勝てません。認知症により、遺言書作成当時は、遺言をする能力がなかったことを立証しなければなりません。

ただ、遺言公正証書は、公証人が、相続人の遺言の趣旨の口述を筆記して作成するので、信頼性は高いです。勿論、判断能力がなかったことが証明されたら、遺言公正証書といえども無効です。ただし、無効にするためには、遺言公正証書無効確認の訴訟を提起しなければなりません。

無効の立証は、お母様の入院されていた病院における治療経過記録(具体的にはカルテ、入院看護記録、長谷川式、MMSE検査などの認知症判定テストの結果等)がまず考えられます。同様に老人ホーム等の施設における介護記録の中にも、お母様の認知症の具体的様子が記載されている場合があります。その他に、身内や、介護を担当したヘルパー、ケアマネ-ジャーなどの、お母様の当時の言動ぶりに関する証言も考えられますが、裁判所ではそれほど重視しません。

もし、遺言公正証書が有効であるとしても、遺留分減殺請求が可能で、本来の相続分の半分である4分の1について権利があります。従って、内容証明郵便で、遺留分減殺請求の意思表示をしなければなりません。消滅時効は1年間ありますが、証拠収集などの時間的制約などを考えると、なるべく早く送った方がいいと思います。

遺留分減殺請求は、遺言公正証書が有効であることを前提にしますが、時間節約のためにも、遺言公正証書無効確認訴訟と並行する形で、予備的に訴訟を提起しておくべきだと考えます。
長男が、お母様の預貯金から払い戻しを受けて、預かったか費消した預貯金については、長男が不当に奪ったか、不当に利得したことになるので、お母様は長男に対して損害賠償請求権、不当利得返還請求権があります。その権利を貴殿が遺留分の4分の1だけ相続しているので、損害賠償請求訴訟か不当利得返還訴訟を提起することが必要となります。

月刊東海財界 2020年11月号掲載