私の父は今年10月に亡くなりました。母はその前に亡くなっており、兄がいます。

父は小さな株式会社組織の建設業をしていましたが、兄が引き継ぎ、株式は兄が55%、父が45%(評価額4000万円)持っています。

父の遺産としては、この会社の事務所(会社名義)が建っている敷地(評価額2500万円)と、自宅土地建物(評価額1500万円)、預貯金2000万円があります。

兄と父は不仲で、父は、私に全ての財産を相続させる、という内容の遺言を作りました。今後、遺産についてどのような争いが発生しますか。

お兄さんは、この遺言があることを知ったら、遺留分減殺請求をしてくるでしょう。
遺留分とは、亡くなった被相続人の兄弟姉妹以外の近しい関係にある法定相続人(配偶者、子供等)に最低限保障される遺産取得分です。

このケースでは、本来の相続分は兄と弟が、それぞれ2分の1ずつですが、遺留分はその相続分の半分の4分の1となります。
遺留分を行使するためには遺留分減殺請求をします。その後どのようになるかについては、今回の相続法で大きな改正が行われ、令和元年7月1日から遺留分侵害額請求の制度が施行されました。施行日以降に開始された相続が対象になります。

まず、今回の改正前の遺留分減殺請求について説明します。減殺請求の意思表示をすると、相続財産に対し、遺留分割合の共有持分を持つことになっていました。従って、相続財産を構成する不動産、預貯金等の債権、自動車等の動産について、遺留分割合の共有持分を取得することになります。

その結果、今回のケースでは各不動産について共有持分4分の1、株式については準共有持分4分の1、預貯金については4分の1に分割された債権の確認を求めることになります。その後、この共有状態を解消するために、共有物分割請求を行い、話し合いがつかなければ、共有物分割訴訟を提起しますが、実際に私も担当しましたが、大変な年月がかかります。

今回の相続法改正によって、遺留分の権利が金銭債権化しました。
本来、遺留分制度は、遺留分権利者の遺産に対し有する持分の清算を目的としています。だとすると、侵害された権利に相当する金銭が払われれば、十分ではないか、と考えられます。これを承けて、遺留分侵害額請求権制度としたのです。

これにより、共有物分割までの2段階の紛争も回避できます。

とても良い改正がなされたようにも思いますが、実は今回のケースでは、落とし穴があります。
今回のケースでは遺産総額は1億円になります。長男が遺留分侵害額請求権を行使すると、25%相当の金銭支払を求めることができ、次男としては、預貯金2000万円以外に自己資金で500万円を支払うことになります。その代わり、株式と、事務所の敷地、自宅を取得できますが、換価が困難で、次男にとって有利とは言えません。

月刊東海財界 2021年1月号掲載