Aさんの夫は3年前に亡くなっており、子供はいません。
この土地の上には、昭和30年頃建てられた建物が建っていますが、Aさんも2年前から施設に入り、居住していないため、老朽化が進んでいます。
建物を取り壊して土地を返して欲しいのですが、可能でしょうか。
最近、類似の相談事例がありました。
以前の記事でもご説明しましたが、賃貸借が、平成4年8月1日以前に成立している場合、昔の借地法が適用されます。
本件では、この借地がいつから始まったか、賃貸借期間がどうなっているかが重要なポイントになります。借地契約書があれば簡単ですが、ない場合は地代支払いの資料(例えば、通い帳)、建物の建築年月日、借主の戸籍の附票などから、確定します。
本件では契約書がないので、賃貸借期間は成立した時から30年間、それ以降は20年毎に更新されていきます(非堅固な建物を前提にしています)。
このように計算して、近々期間が満了するときは、期間満了前に、今後賃貸借契約を更新しない旨の意思表示を必ず書面でしておいてください。更新拒絶をするには正当事由が必要ですが、建物が誰も使用しておらず、老朽化がひどいときは、金銭(立退き料)支払いは必要になるかと思いますが、明け渡しが認められる可能性が高いと思います。
賃貸借の期間の合意がない場合で、建物の老朽化が進み朽廃している時には、賃貸借法定期間が満了する前でも、賃貸借は終了します。ただ、老朽化したかどうかの判断が微妙になりそうです。
なお期間満了がまだ先になる場合は、Aさんとその夫の相続人(それぞれの兄弟、兄弟が死亡している時はその子供)が、この借地権を相続することになり、相続人の間で遺産分割協議がなされて、相続人が決まります。ただ、建物が老朽化しているため、借地権を相続して、居住する人はいないと考えられます。また、借地権を相続すると地代の支払い義務も相続しますから、この点からも相続しようとは思わないでしょう。
また、土地所有者としては、地代の請求を相続人に敢えて請求せず、地代不払いの状態を継続させ、地代不払いによる債務不履行による解除をして、明け渡しを行うよう狙う道もあります。
なお、借地法をよく勉強している人だと、再築して、その後賃貸借の更新をして借り続けることを考えるかもしれません。その場合は、土地所有者としては、その段階での賃貸借の残存期間において再築するのに対して異議を述べておくべきです。次の更新時に更新拒絶できる可能性があります。
かなり、難しい説明をしましたが、おそらくは、土地所有者が相続人に対して、個別に、借地権の消滅と建物取り壊しの交渉をしていけば、承諾を得られる可能性が高いでしょう。
月刊東海財界 2021年2月号掲載