預金の使い込み(不当利得返還請求・損害賠償請求)

  • 「遺産の預貯金を誰かが使い込んでいる・・・」
  • 「被相続人の預金が勝手に引き出しされていた・・・」
  • 「遺産分割協議が終わった後に、預金の使い込みがあったことが分かった・・・」

このようなお悩みをお抱えになられている方はいらっしゃりませんでしょうか?

預金の使い込み

相続の相談でとりわけ多いのが、亡くなられた方(被相続人)と一緒に住んでいた、または近くに住んでいた相続人などが、被相続人に無断で銀行預金を引き出し、使い込んでしまっていたという問題です。

  • 「父親が亡くなって、いざ遺産分割協議を始めようと思ったら、預貯金がほとんどなかった。」
  • 「父が亡くなったとき、母がかなりの遺産を相続した。それなのに、母が亡くなった後調べてみたら、多額の引出しがされて、ほとんどなくなってしまっている。」
  • 「親の財産状況は正確にはわからないが、どうも遺産が少なすぎる気がする。」
  • 「母が亡くなった後、遺産分割協議をしようと思ったが、同居していた兄が通帳を開示してくれない。」

といったようなご相談から、預金の引出・使い込みが判明し、争いとなるケースが多いです。

預金の使い込み

被相続人の預金を、相続開始の前後に、相続人の一人(特に同居の親族)が引き出していることはままあります。

被相続人が高齢となると、体調不良、運転できない、施設への入所などの理由により、自分1人で預金を管理したり、引出に行ったりすることがどうしても難しくなってきます。そのため、同居しているか、近くに住んでいる相続人(お子さん)などに頼らざるを得なくなってきます。

預金の使い込み

単に時々引出を任せるだけではなく、通帳もキャッシュカードも印鑑も預けてしまい、完全に管理を任せていることもよくあります。これを利用して、通帳などを預かった人が、被相続人に無断でどんどん預金を引き出して、使い込んでしまうことが多いのです。

使い込んだお金を返すように請求する権利

相続開始前に、被相続人に無断で引き出された預金については、本来は、被相続人が、引き出した人に対して返すように請求(不当利得返還請求・不法行為に基づく損害賠償請求)することができるものになります。もっとも、現実には、被相続人がこのような引出に気付かずに、または判断能力が不十分な状態となってしまい、返還請求することなく亡くなられてしまうことが大半です。

このような場合には、被相続人の死亡により、相続人が「返すように請求する権利」を相続することになります。ただし、引き出した人が相続人である場合には、引き出した人自身もこの権利を相続します。

例えば、長男が父親の預金を3000万円引き出しており、相続人が、長男、二男、三男の3人である場合には、長男が1000万円分を相続しますので、二男、三男は、2人で2000万円(各自1000万円)を返すように長男に請求できるということになります。

被相続人の了承を得てお金を使った場合

被相続人の了承を得てお金を使った場合

被相続人に無断で使い込むのではなく、被相続人の了承を得て、被相続人から贈与を受けている場合もあります。この場合には、贈与された分が、遺産分割の中で、特別受益として扱われる可能性があります。

また、預金口座の取引履歴から、把握されていなかった遺産が判明することもあります。

このように、被相続人の預金口座の取引履歴は、色々な点に関係してきますので、相続人による使い込みが疑われる場合に限らず、念のために確認しておいた方がよいといえます。

なお、預金口座の取引履歴について、金融機関に照会する場合には、通常、調査時点から、過去10年分までしか遡って調査できません。つまり、例えば被相続人が亡くなった後、5年間放置していた場合、被相続人の生前の履歴は、5年間分しか調査できないことになります。

ですから、取引履歴の調査は、被相続人が亡くなられた後、すみやかに行うことをお勧めします。

不当利得返還請求・不法行為に基づく損害賠償請求

使い込んだ人に対する請求について、法律上は、不当利得返還請求不法行為に基づく損害賠償請求が考えられます。耳慣れない言葉ですが、二重に請求できるというわけではなく、法律構成の違いとお考え下さい。

両者の主な違いは、
①時効の長さ
②弁護士費用が請求できるか
という点です。

預金の使い込み

①時効の長さ

不当利得の場合には、権利を行使することができるとき(基本的には引き出したとき)から10年で時効でした。
ただし、民法の改正がありましたので、改正後は、権利を行使することができるときから10年または権利を行使することができることを知ったときから5年の早い方で時効となります。他方、不法行為の場合には、損害及び加害者を知ったときから3年で時効となります。

②弁護士費用が請求できるか

原則として不当利得の場合には請求できませんが、不法行為の場合には請求できます。
ただし、実際にかかった弁護士費用をそのまま請求できるわけではありませんし、和解で終了する場合には、不法行為でも弁護士費用を含めずに解決することが多いです。

どんな資料が必要になりますか?

どんな資料が必要になりますか?

相続人のうちの1人が使い込んだと疑われる場合であっても、証拠が無ければ裁判所で認めてもらうことはできません。

そこで、使い込みを裏付ける証拠を収集する必要があります。ここでは使い込みの責任追及のため、どんな証拠が必要となるかご説明します。

①戸籍謄本

まずは自分が相続人であることを明らかにする必要があります。
相続人の確定のためには、少なくとも被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要です。

②銀行の取引履歴・銀行伝票

実際にお金を引き出した人を明らかにする必要があります。伝票があれば、その筆跡から、払戻しのとき、誰が窓口で手続をしたのかということが分かり得ます。

もっとも、最近ではATMで引き出しされていることも多いです。ATMでは誰が引き出したかはわかりませんが、例えば通帳などを管理していた相続人の自宅近くのATMで引き出しされていれば、その相続人による引出であると認められる場合もあります。

③被相続人の判断能力に関するカルテ・介護記録・診断書、介護認定記録

被相続人の判断能力は、非常に重要な問題です。

たとえば、重度の認知症と診断されており、判断能力を欠く状況であった場合は、預金の引き出し時に、被相続人から同意を得ることは不可能であったといえます。また、被相続人が、引き出したお金を受け取って、自分で使ったという可能性も否定され得ます。

介護認定記録(要介護認定申請に関する記録)には、認定調査員が調査した被相続人の認知機能の状態などが記載されています。生活状況に関する詳細な記載があり、判断能力について主張する際に役に立つことが多いです。

他にも色々ありますが、代表的なものは以上です。

どのような手続をしますか?

どのような手続をしますか?

まずは、交渉で、相手方に説明を求め、その説明が合理的かどうか、証拠があるかを確認します。相手方が説明をしなかったり、不合理な説明しかしない場合は、請求額を明確にして請求を行います。

相手方が請求に応じなかった場合は、地方裁判所に訴訟を提起する必要があります。

相手方は、被相続人に頼まれて引き出して、被相続人のために使った、とか被相続人から贈与してもらったなど、色々な主張をすることが多いです。

弁護士にはどの段階で頼むのがいいですか?

弁護士は、依頼者の代わりに被相続人の銀行取引履歴や伝票の取得をすることができます。伝票の取得はスムーズにいかないこともありますので、徹底した調査をしたい場合は、弁護士にご依頼いただいた方が良いと言えます。

調査は自分でやる、という場合でも、疑惑が明らかになった後の追及は不十分になってしまうことが多いため、できれば、相手方と折衝する際には弁護士にご依頼頂いた方がよいと思います。

弁護士にご相談ください

預金の使い込みは、長期間にわたり、多額の引出がなされていることが多く、なかなか話し合いで解決することが難しい問題です。

弁護士ならではの、相手方とのやり取りの記録化の方法や、後で言い逃れができないような責任追及の方法について、アドバイスさせていただくこともできますので、まずは早めにご相談ください。

弁護士にご相談ください

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