相続問題についての知識

遺留分侵害額請求とは?財産を取り戻す方法を分かりやすく解説

  • 兄に比べてとても少ない額の遺産しか受け取っていないが、誰にも言えず、そろそろ1年になる。
  • 親が、姉の子に、不動産のほとんどを贈与していた。残った遺産はごくわずか。この遺産を姉と分けるしかないのだろうか。
  • 父が遺言で全財産を福祉施設に寄付した。自分は何ももらえないのだろうか。

このような場合には、遺留分侵害額請求(民法第1046条)を行う必要があります。

遺留分侵害額請求とは?

遺留分侵害額請求とは?

遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人(亡くなった方)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものです。

被相続人が財産を遺留分権利者以外に贈与又は遺贈したことが原因で、遺留分権利者が遺留分に相当する財産を受け取ることができなかった場合、遺留分権利者は、贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分を侵害されたとして、その侵害額に相当する金銭の支払を請求することできます。これを遺留分侵害額の請求といいます。

遺留分侵害額請求とは?

遺留分侵害額請求ができるのは誰?

遺留分侵害額請求ができるのは、①遺留分を侵害された者(兄弟姉妹以外の相続人)、及び、②遺留分を侵害された者の承継人(相続人、相続分譲受人)です。

遺留分侵害額請求ができるのは誰?

民法改正!遺留分侵害額請求権(改正後)と、遺留分減殺請求権(改正前)の違いは?

2019年7月1日から施行された改正民法により、従来の「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害額請求権」へと、権利の名称・内容が変更されました。
この改正により、遺留分侵害額請求権についてどのような点が変更になったのかを解説します。

1.改正後は、金銭請求に統一

従来は、遺留分減殺請求によって、遺贈又は贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、目的物の所有権等の権利は、当然に請求者に帰属することとされていました 
一方、民法改正後の遺留分侵害額請求権においては、遺留分侵害の精算は金銭の支払いによることとされました(民法第1046条第1項)。

改正後は、金銭請求に統一

2.遺留分侵害額請求に対する支払猶予

遺贈を受けた側が、遺留分侵害額として請求された金額の現金をすぐに用意できない可能性もあります。
そこで、法改正により、現金をすぐに用意できない場合には、金銭債務の全部または一部の支払い期限の猶予を裁判所に求められる制度が併設されました(民法第1047条第5項)。

3.生前贈与の取り扱いの変更

相続財産に被相続人から相続人に贈与した財産をどこまで含めるかは、遺留分侵害額算定の基礎となる重要事項です。相続財産に含める贈与財産の範囲は、次のように改正されました。

【相続財産に含める贈与の範囲】

  • 婚姻・養子縁組・生計の資本として、相続人に対してなされた贈与(特別受益に当たる贈与)
    →相続開始前の10年間分をさかのぼって相続財産に含めます(民法第1044条1項,3項)。
  • 当事者双方が遺留分権利者に対して損害を加えることを知ってなされた(悪意の)贈与
    →無制限に相続財産に含められます。悪意の贈与の取り扱いは改正前と変わりはありません(民法第1044条第1項,3項)。
  • その他の贈与
    →相続開始の1年前までを相続財産に含めます(民法第1044条第1項)。

遺留分侵害額の計算方法

そもそも遺留分とは?

遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人(亡くなった方)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分です。

遺留分の計算方法

遺留分の計算式は以下のとおりです。
【遺留分=遺留分を算定するための財産の価額×総体的遺留分×遺留分権利者の法定相続分】

遺留分侵害額の計算方法

遺留分侵害額の計算式は以下のとおりです。
【遺留分侵害額=遺留分額-遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益の額―具体的相続分(寄与分を除く)に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額+相続債務のうち遺留分権利者が負担する債務の額】(民法第1046条第2項)

相続税の計算

遺留分侵害額に相当する金銭を支払った側は、課税庁に対して更正の請求をすることにより、遺留分に対応する部分について、すでに支払った相続税の還付を受けることができます。

他方、遺留分侵害額請求によって金銭を取得した側は、相続税の期限後申告書を提出して、遺留分に対応する部分について相続税を納めることになります。

また、金銭の支払いに代えて、不動産など資産の全部または一部を侵害額請求者に移転させた場合には、譲渡所得税等がかかりうる点に注意が必要です。

遺留分侵害額請求の期限はいつまで?

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、時効により消滅してしまいます(民法第1048条第1文)。

また、相続開始の時から10年間が経過した場合、遺留分侵害額請求権は除斥期間により消滅します(民法第1048条第2文)。

したがって、消滅時効・除斥期間により遺留分侵害額請求権が行使できなくなってしまう前に、早めの対応を行う必要があります。

遺留分侵害額請求の期限

遺留分侵害額請求の方法

1.内容証明郵便で遺留分侵害額請求書を送る

遺留分侵害額請求権の消滅時効が迫っている場合等には、消滅時効の完成を猶予するため、話し合いの途中であっても、いったん内容証明郵便を送付しておくことが必要になります。

内容証明郵便の書き方(書式)

遺留分侵害額請求の内容証明として機能させるために、最低限以下のことを書いておきましょう。

  1. 被相続人(亡くなった方)が誰であるかを明記し、どの相続を対象とした遺留分か記載する。
  2. 被相続人(亡くなった方)の遺留分を侵害している行為を特定する(遺言の内容あるいは生前贈与など)。
  3. 遺留分権利者(あなた自身)の名前を明確にする。
  4. 遺留分侵害額請求権を行使する旨を記載する。

これらを記載することで、遺留分侵害額請求の意思表示として確かな機能を持った内容証明郵便となります。遺留分減殺の目的物や遺留分の額・遺留分の割合などは書く必要はありません。

2.話し合いをする

相続は親族間の問題ですので、円満な解決を目指すためには、まずは話し合うことから始めましょう。

3.合意書を作成する

話し合いの結果、遺産の配分について意見がまとまった場合、その内容を書面(和解書や合意書)に残しておかなければなりません。書面等の形で残しておかないと、口約束で終わってしまい、後で裁判になった時、話し合いでまとまった内容について証明することが出来なくなってしまうからです。

このような書面は、形式的なルールがあるわけではありませんが、遺産の配分や話し合いに参加した人の氏名をもれなく記載して、参加者全員の署名と押印を得ておくべきです。

なお、このような合意書について、公証役場で公正証書の形で残しておくと、後に誰かが約束を反故にしたとしても、一定の内容の条件を満たした合意書であれば、その合意書に基づいて強制的に合意内容の執行(実現)をすることが出来ます。

遺留分侵害額請求の方法

話し合いがまとまらない場合

家庭裁判所に遺留分侵害額調停を申し立てる

話し合いでまとまらない場合、遺留分権利者は、家庭裁判所に遺留分侵害額請求の調停を申し立てます。あるいは、地方裁判所に訴訟提起を行います。

調停に必要な書類等リスト

状況により変わりますが、原則として、以下のような書類が必要です。

  • 申立書とその写し
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍、改正原戸籍)
  • 相続人全員の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 代襲相続をしている人の中で死亡した人がいればその人の一生分の戸籍謄本(除籍、改正原戸籍)
  • 不動産登記事項証明書、遺言書の写し、遺言書の検認調書謄本の写し
  • 当事者目録(自分もしくは弁護士、司法書士などの代理人が作成)
  • 不動産(土地建物)目録(自分もしくは弁護士、司法書士などの代理人が作成)
  • 申立費用(1,200円の収入印紙)
  • 連絡用の郵便切手代

遺留分侵害額調停が不成立となった場合

調停で話し合いがまとまらない場合、調停不成立となり、続いて、裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を提起することによって、問題の解決を図ることになります。
遺留分権利者は、裁判所に「訴状」を提出し、遺留分侵害額請求訴訟を提起します。

訴訟に必要な書類リスト

状況により変わりますが、原則として、上記遺留分侵害額請求調停と概ね同じ書類が必要になります。なお、訴訟費用は、請求する遺留分侵害額に応じ、定められた金額になります。

遺留分侵害額請求をされたら

遺留分侵害額請求をされた場合、これを無視することはできません。

なぜなら、遺留分は、相続人の生活保障と相続人間の公平のために法律で保証された制度であり、相手方にも正当な権利があるからです。相手方からの請求を放置してしまうと訴訟提起されたり、話し合いで解決できた場合に比べて不利な状況になったりしてしまうことがあります。

弁護士に相談することをお勧めします

あなたが遺留分侵害額請求をする場合には、弁護士に依頼することをお勧めします。遺留分侵害額請求は、既に相手方のものになっている財産を調査し、取り戻さなければなりません。個人でできる範囲の調査は限界があることも多いのです。

また、あなたが相手方から遺留分侵害額請求をされた場合にも、遺留分の制度は複雑であり、相続分野に関する幅広い知識が必要になりますので、弁護士への相談は不可欠です。とりわけ不動産や会社(非上場株式)が関係してくるような事案では、最初から弁護士に依頼した方がよいでしょう。

遺留分侵害額請求においては、遺産(と生前贈与された財産)の全体像を明確にすることが最も大切です。財産の範囲についての調査や適切な評価額を得るという点においても、経験の豊富な弁護士に依頼することで、民事訴訟にスムーズに入ることができます。

裁判外で遺留分について話し合った場合には、必ず決定事項について合意書を作成しておくことが大切です。証拠を残すことが、その後のトラブル防止につながります。

弁護士をつけることをお勧めします

遺留分侵害額請求を行わなければならないケースというのは、冒頭の例のように、亡くなった方(遺言者・被相続人)の特別な思いが込められている遺言(贈与)か、他の相続人からの働きかけ等により特定の人に特別に有利な遺言(贈与)により発生するケースが大半です。このような場合、感情論が先行し、遺留分についてはまったく解決しないばかりか、親族関係についてもこじれてしまうことが多いのです。

感情論では何も解決せず事態を悪化させるだけですので、ルールと事実にのっとって交渉できる弁護士にご依頼いただく方が、迅速かつ適切に解決できます。

遺留分の制度は複雑なうえ、放っておくと権利がなくなるなど取り返しがつかない事態が生じることも考えられます。早めに弁護士に相談されることをお勧めします。

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