父は,株式会社を設立して株式を100%保有して,代表取締役をしておりましたが,先日亡くなりました。A社には他に取締役はいません。会社はどうなるのでしょうか。

答え
まず,株式は,当然に分割されませんので,遺産分割をする必要があります。株式が全部で2株,相続人が2人で1/2ずつの相続分,という場合でも,1人1株ずつ保有することにはなりません。
分割前の株式は,相続人全員の準共有の状態になります。すなわち,2人で,2株を共有するということになるのです。
遺産分割がなされた後は,あとは多数決で決めるという通常の状態に戻るだけですので,ここでは分割前はどうなるかについてお話しします。

 

この場合,株主としての権利の行使は,相続人全員で代表者1人を届け出て行うのが原則です(会社法106条本文)。
すると,相続人の1人でも反対すれば,権利の行使ができないことになりそうです。しかし,会社が同意した場合は,権利行使ができるのです(会社法106条但書)。というのも,最高裁の判例によれば,「共有者間において権利行使者を定めるときは、持分の価格に従いその過半数をもってこれを決することができる」(最高裁平成九年一月二八日)ことになっており,過半数で決めたのであれば,その権利行使に問題はないからです。とはいえ,会社が同意しても,その権利行使が過半数で決せられたものでなければ,共有者の一部による不当な議決権行使となり,株主総会の決議が取消されることはあります。

 

今回の場合は,けっきょく,どうなるのでしょうか。
相続人の1人でも反対した場合,会社(代表取締役)の側から同意してもらわなければなりませんが,代表取締役が亡くなっています。取締役が他にいれば,取締役会で新しい代表取締役を選べますが,取締役が他にいなかった場合には,新しい(代表)取締役を株主総会で選ぼうにも,相続人全員が賛成しなければ,決議ができません。
この場合には,仮取締役の選任を裁判所に請求するか(会社法第346条第2項)、仮代表取締役の選任を裁判所に請求(会社法第351条第2項)することになります。