弁護士コラム

「相続人の寄与分及び特別受益のお話(1)」 弁護士 鬼頭華子

当事務所では、週に1回、家事事件の勉強会を行っています。
今回は、勉強会で検討した事項の中から、遺産分割において問題となることの多い特別受益と寄与分について、2回に分けてお話しさせていただきます。

相続人の寄与分及び特別受益のお話

1 はじめに

被相続人が死亡した場合、遺産分割をして被相続人の財産(相続財産)を相続人間で分ける(このことを遺産分割といいます)のは前回(遺産分割の対象となる財産・ならない財産)ご紹介したとおりです。

遺産分割の際、「私は、晩年認知症が進んだ被相続人の介護をしてきたのだから、遺産を多めに取得したい」「特定の相続人だけが被相続人から金銭的援助を受けていた。当該相続人の相続分は援助を受けた分を差し引くべきだ」など主張されることがよくあります。

法律上、これらの主張は認められるのでしょうか。前者の議論は「寄与分」、後者は「特別受益」と呼ばれ、遺産分割で考慮される場合があります。

今回は、前者の寄与分についてご説明いたします。

2 寄与分とは

生前の預貯金の引出し行為について

1)寄与分の類型

寄与分とは、身分関係や親族関係から通常期待される以上に被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者があるときに、その特別の寄与の評価を割合や金額で算出したものであり、寄与者である相続人の相続分には寄与分の額が加算されます(民法904条の2)。

寄与行為には、①家業従事型②金銭等出資型③療養看護型④扶養型⑤財産管理型の5類型があると言われており、上記の介護の主張は③療養看護型の寄与行為があった旨の主張に該当する可能性があります。

  • ①家業従事型…被相続人の営む事業や農業などの自家営業を協力して行っていた場合
  • ②金銭等出資型…被相続人の借金の返済を行うなど、財産上の利益を給付した場合
  • ③療養看護型…相続人が被相続人の療養看護に従事した場合
  • ④扶養型…被相続人に自己の収入から生活費を渡していたなどし、被相続人を扶養し、被相続人が生活費等の出費を免れたため、財産が維持された場合
  • ⑤財産管理型…被相続人の財産を管理して、被相続人が管理費用の支出を免れたために、財産が維持形成された場合

(2)寄与分の要件

相続人の寄与行為が法律上「寄与分」として認められるには、当該行為が「特別の寄与」と評価できること、被相続人の財産の維持または増加があること、寄与行為と財産維持・増加との因果関係があること、が必要です。

「特別な寄与」とは、民法上、夫婦間に存在する同居扶助協力義務(民法752条)や親族間に存在する扶養義務・互助義務(民法877条)として通常期待される程度を超える貢献であることをいいます。

また、寄与行為は、原則として無償でなければならないとされており、寄与行為があったとしても、当該相続人に対して生前贈与や遺言などによって対価が相応に与えられている場合には、寄与分として認められないと解されています。

3 療養看護型における寄与分の認定と具体的算定

(1)冒頭のケースのように、被相続人の世話や介護をしていた場合は、療養看護型の寄与分が問題となりえます。 一般的に、「特別の寄与」と認められるには、被相続人が介護保険制度における「介護報酬基準」でいう要介護2以上の状態にあったことがまず必要とされます。そのうえで療養看護の必要性、特別の貢献、継続性、専従性、無償性が必要です。

療養看護型における寄与分の認定と具体的算定

(2)療養看護型寄与分の具体的算定 実務上、算定方式は療養看護行為の報酬相当額(介護保険における「介護報酬基準」が用いられることが多いです)×看護日数×裁量割合(通常は0.5~0.8の間)により算定されます。 なお、他の考え方として、民事交通事件訴訟における近親者付添費(症状の程度によって変動可能性あり)×看護日数とする考え方もあるようです。

※平成30年8月28日時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。

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